01/じゅんじぃのクッキングスタジオ/涙の忘れ物

料理が作れる男になりたいと思った。

料理を作れる男はかっこいいと思うし、かっこいいと思われたいなとも思う。

なにより僕はおいしいご飯を食べるのが大好きだから、自分でおいしい料理が作れたら、自分ひとりで幸せの循環ができてしまう。

よし、おいしいご飯を作ろう!と思ってみたものの、何から始めよう。

正直料理はほぼやったことが無い。そりゃ、家庭科などで料理を作る機会はあったものの、それは僕一人ではなかったし、それきりだったからまあどうとでもなるものだった。皿洗いを頑張ればいいし。

そんな調子でここまで二十数年を生きてきたから、料理に関する知識は全くと言っていいほどないし、なんならお米も炊けない。

近所のショッピングモールには流行りの料理教室だってあったけれど、今までは素通りしてきた。見て見ぬふりをしてきた。一丁前にプライドだけはあるのか料理を習うことには抵抗があった。

だとしたらもう、習うより慣れるしかないじゃないか。失敗したってなんだって、料理を作っているうちに段々上手くなるかもしれないし。

そう思って料理を作ってみることにした。その記念すべき第1回目の記録を残そうと思う。

第1回目だったから無理はしたくないなと思い、メイン1品のみ作ってみることにした。

もう作る品は決まっている。大好物のハンバーグだ。

おいしいハンバーグを自分が作れることを想像しただけでなんだか幸せな気持ちになる。大好物だからハンバーグを選んだというのは実は理由の半分で、もう半分は手に取った料理本(なるべく初心者用のものを厳選した)の1ページ目に出てきていた料理がハンバーグだったからである。どこまでも1回目は置きにいきたかった。

ハンバーグには何が入っているだろう。そう、玉ねぎである。

玉ねぎのみじん切りが必要になるのだが、これが冗談ではなく本当に涙が止まらない。鼻はツーンとしてきて視界は霞み、しかも玉ねぎは崩れていき切りづらい。

基本のキだったはずのハンバーグの、しかも初っ端の工程で大苦戦を強いられたが、そこは気合と根性でみじん切った。

後から聞いた話だが、玉ねぎは冷やしておくと涙が出にくくなるらしい。今度やってみようと思う。

玉ねぎさえ切ってしまえば、あとは肉をこねて丸くして、フライパンで焼くだけだ。

焼くだけなのだが、途中作業手順に両手で肉をボールにように投げ合い、空気を抜くというところで、どういう状態が空気が抜けた状態なのかがさっぱりわからず、とりあえず多めにパンパンしたところ、やけに大きな平べったい肉の塊になったことはしっかり記録として残しておく。

とにかく自分は初心者なのだから本の通りに作ろうと思い、時間も本に忠実にタイマーを用いて測るようにした。だから、料理本特有の、野菜がしんなりしてきたらとか油がぷつぷつ言い始めたらとかいう文言を見ると困ってしまう。

料理ができる人がよくいう「ちょうどいい感じ」がさっぱりわからないので、そういう時はとりあえず、多めに、長めに、やっておくことにしている。

とりあえず長めに焼いていたら、やっぱり焦げてしまったけど、

そこでくじけたらだめなのでお皿に盛りつけた。形こそ不格好だが、いい匂いだし初めてにしては成功ではないかと少し達成感を感じていた。そう、この時までは。

ふと振り返ると親が立っていた。手にはお皿を持っていて一言こういった。

「玉ねぎは?」

何を言っているのかわからなかった。でも、母の手にはみじん切りにされた玉ねぎが山盛りあったし、それは数十分前に自分で切ったものに間違いなかった。

「あ、入れるの忘れた。」

その瞬間、満点を目指す戦いから減点を減らす戦いに変わった。

本によると、先ほどまでハンバーグを焼いていたフライパンではソースを作ることになっていたので、そこに玉ねぎをぶち込んでみることにした。咄嗟の機転を誉めてあげたいが、そんな暇もなくとりあえず調理を進めた。

ソースと玉ねぎが混ざり合い、やっぱりちょっと玉ねぎは焦げてしまったが何となくおいしそうに見えてきたので、ハンバーグにかけてみることにした。そう、もう空腹の限界が近かった。

出来立てのハンバーグは驚くほどしょっぱかった。本格的なハンバーガー屋さんで出されるバーガーに挟まれていそうな味だった。ハンバーグというより大きな肉団子を作ってしまったようだ。

玉ねぎが入っていなかったからなのか、涙が入ってしまったからなのか、しょっぱさの原因は今でもよくわかっていない。

でも、やっぱり空腹で、しかも自分で作ったからかおいしく感じたのも事実で、ぺろりと完食した。

記念すべき第1回目は波乱に満ちた展開となった。しかし、止まるわけにはいかない。ここで止まってしまったら、大きな肉団子を作った人で終わってしまう。

早く料理が作れるかっこいい男になりたいなと思った。

あぁ、亀乃のハンバーグが食べたい。